ヴィエトリ・スル・マーレという街をご存知でしょうか?
イタリア在住の方、または南イタリア好き、陶器好きの方はもしかしたら聞き覚えのある街の名前かもしれません。
ヴィエトリ・スル・マーレ(以下省略してヴィエトリ)は日本でも名前の知られたアマルフィー海岸を北から入っていくとその最終地点にある小さな街。サレルノ方面から行くと最初の街となります。
サレルノから市バスも出ていて、1番・4番・9番のバスで7~8分といったところでしょうか。この小さな街は、イタリアでは陶器の街として全国的に有名で、マヨリカ陶器の工房やお店が64件もあるのだそうです。南イタリアのアマルフィー海岸の街々や、カプリ島などで売られているマヨリカ焼きもほとんどがこのヴィエトリで作られています。
今回の2週間のマヨリカ焼き絵付け修行は、このヴィエトリの工房「DAEDAULUS」さんにて行われました。
”工房にて陶器製作のマエストロの指導のもと、古き良き伝統的な製造法と装飾法で壷やその他の陶器作品を作り上げていきます”というイタリア語学校の説明文にはさほど期待していなかったものの、マエストロ(師匠・偉い先生)は初日に一回10分程度現れたのみ。その後は1度クリスマスの挨拶に工房に立ち寄りましたが、それっきり現れず・・・。「さすがイタリア、やられた~!」と最初は思いましたが、しかしマエストロの描いたデザインは好みではなかったし、なんとな~く好きになれない人物だったので、かえってよかったのかも・・・・。
・・・と、そう思えたのも、働き者のお店のオーナーのニコラとフランカ夫妻と工房で働く二人の絵付け師ヌンツィアとアッスンタ、そしてガエタノくん5人のお陰です。
お店をきりもりしつつ、夜遅くまで窯入れをするニコラ。何故か奥さんには「ニコラーーーー!!!」と怒鳴られっぱなしの彼ですが、ヴィエトリの街で彼の名前を知らない人はいないというほどの名士です。
窯入れのコツ、温度や時間など色々教えて頂きました。GRAZIE!
オーナー夫人のフランカ。彼女のバイタリティーは本当にすごい!お店の電話はほとんど彼女が仕切り、営業、接客、そしてお店がひと段落すると・・・・なんと、絵付けにも勤しむ働き者!「Non ti preoccupare!(心配しないで!)」が口癖の彼女。彼女の人望に惹かれてやってくるお客様も多数の素敵なシニョーラ。
「今度来るときは、住むところも探してあげるからね」・・・・って本当かしら?
寡黙な職人ガエタノくん(通称ゲイター(←私だけ))。掻き混ぜているのは、マヨリカ焼きで一番重要ともいえるsmalto(ガラス質の釉薬)です。日本の学校でも、この釉がけはほぼ毎回必須なのですが、これがなかなか難しい作業なのです!そんな作業を何なくこなすガエタノくん。「やってみる?」と、何度も納得のいくまで釉がけや型抜きを教えてくれた、素晴らしい先生です。打ち解けてくると、結構明るく鼻歌交じりで「日本語の文字でガエタノってどう描くの?」と、意外にフレンドリーな彼。私が考えた「芸多能」という名前も気に入ってくれた模様。よかったよかった♪
尊敬すべき絵付け師のヌンツィア(左)とアンナ・アッスンタ(右)です。
絵付け師になるべくして生まれてきた・・・と思われるヌンツィアは、mano libera(下書きなしのフリーハンド)の達人。この工房の下書きと線描きのほとんどは彼女の手によるものです。「線は一気にかかなきゃだめ」「手首をきかせることが大事」などなど沢山のアドバイスを貰いました。「stessa densita(同じ濃度)を保つのは難しい」ということを教えてくれたのも彼女。とにかく”練習”が大事なのだそうです。
右のアンナ・アッスンタ(以下アッスンタ)の担当は、色付け。同じ濃度で均一に色を付けていく作業になんど見とれたことか・・・・。一件真面目そうなアンナ・アッスンタ、実は結構おもしろいキャラの持ち主。「今日は何を食べたの?(お昼ごはん)」が口癖の彼女、どんな質問にも快く答えてくれました。アッスンタに教えてもらった画材やさんで買った筆は、今私の宝物です♪2人とも、本当にどうもありがとう!
彼らが素晴らしいのは、肩の力を入れずに、でも怠けたり楽したりせずに、淡々とその作業をこなしていくその姿勢。イタリア人の職人気質というのは、おそらくルネッサンス・・・いやローマもしくはエトルリア時代から培われたDNAが成せる技なのかもしれませんが、芸術的かつエキスパートな働き者なのです。かといって、細かいことにこだわらず、のびのび・・・・というのがイタリア流。本当に現場で学んでみなければ分からないこと・・・って沢山あるものですね。
①濃い色の輪郭線を先に描くのが南イタリア流。スペイン流は縁取りは後から・・・です。
②太めの筆もよく使います。(大胆なタッチが出しやすいです。)
③粉状の絵付け用絵の具は予め大量に溶かしてあります。日本の学校では少しずつ溶かして描き、濃さが分かりやすいのですが、手早く沢山描くには予め溶かしてあるほうが便利です。
・・・・・などなど。とにかく工房で実際に働いている視点で、実践として学ぶことが沢山ありました。
↑私が2週間借りていた、絵付けの席です。普段はフランカが使っている席ですが、この席で沢山のことを学びました。
手回しろくろの上に置いてあるのが、私が最後に作った作品です。
作品・・・といっても練習がほとんどでしたが、作ったものはmattonerra(タイル)5枚、小さな絵2枚、お皿2枚、小さな瓶1つ、大きな瓶1つ。
工房の得意とする絵柄は、かわいらしいヴィエトリの街の風景や洗濯物の風景など・・・。子供向けのラインナップもお得意です。そんな中、私は”伝統的なマヨリカ焼き”の絵柄に固執して、ひたすら伝統的(と思われる)な絵柄を描き続けていました。
ヴィエトリの街はとにかく陶器だらけ。街もお店も私の好きな絵柄に溢れています。毎日の帰り道にいろいろなお店のマヨリカ陶器の図柄や筆のタッチを見ながら、何が自分の好きな絵柄が・・・が分かったことも、今回の大きな収穫でした。
今、私が好きな絵柄は、フルーツとバロッコ(↓例えば、この作品。)。この2つが沢山存在するヴィエトリ・スル・マーレは、私にとってはどんな宝石にも負けない宝の宝庫・・・でした♪
絵付けが上手になるには、まだまだ修行が必要・・・・・ということが分かったことも、大きな収穫かな?
”ヴィエトリ・スル・マーレ”
華やかなアマルフィー海岸の南端にひっそりと佇む陶器の街。
マヨリカ焼きに興味がある人には、是非訪れてみて欲しい街です。